「環境公益志向」は73%と大勢を占める
-2008年の空気を読む

2008.01 代表 松田久一

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 時代の「空気」が変わり始めた。

 どの業界でもどんな仕事でも「空気を読む」ことが大事だ。特に、空気で物事が決まっていく日本では成功の鍵だ。ところが「空気」は、職場、学校や地域などの「場」によって、さらに時代によって変わる。従って、空気はなかなか読みきれないし、読み違えると相手にされなくなる。

 2006年までの「構造改革」の時代、世間の空気を反映した価値意識は、「自分の能力や可能性を信じて、人間関係を広げながら、世間と時代に先駆けて、出世の階段を誰よりも早く駆け上って行く」ことだった。ライブドアや村上ファンドの経営者に象徴される意識は「個人上昇志向」として類型化される。バブル崩壊後の閉塞感の漂うなかで多くの人々が共感を抱いた。

 しかし、昨年(06年)末から今年(07年)度の上期にかけて、空気は大きく変わり始めた。「個人上昇志向」の価値意識に代わって、「地球、社会と調和しながら、家族と心の大切さを大事にして、人のために役立ちたい」という価値意識が大勢を占めるようになった。地球環境問題への高い関心や様々な社会格差の是正意識に象徴されるこうした意識は「環境公益志向」として捉えられる。

図表 環境公益志向と個人上昇志向
図表
出所:「消費社会白書2008」より

 2007年の参院選後の価値意識の調査では、「環境公益志向」の支持は約73%、「個人上昇志向」は約36%とおよそ半分である(図表)。価値意識の二大潮流である環境や社会との調和を重視する公益志向と個人主義的な自己実現志向との地位のおよそ10年ぶりの逆転である。世間の空気の大勢と変化の趨勢は明らかに、「環境公益志向」へと転じた。起業、出世や六本木ヒルズの話より、環境、ダイエット法や「夕張」の話をした方がうけるようになった。こうした価値意識の変化が、参院選の結果に反映されたことは言うまでもない。

 逆転の理由を三つ上げることができる。ひとつめは、地域や収入格差が、選挙やマスコミ報道などで広く知られるようになり格差の是正意識が高まったことである。その結果、個人の利益よりも社会全体の調和を重視する意識が強くなった。ふたつめは、大勢を占めてきた個人主義的な自己実現志向が、起業家の不正な株価操作や粉飾などの事件によって、より健全な「個人上昇志向」とより私益を重視する「自分主義志向」のふたつに分裂してしまったことである。つまり、主流派の分裂の結果、漁夫の利を得て「環境公益志向」が主流になったことである。三つめは、「環境公益志向」は40-50代以上で強く、「個人上昇志向」は10-20代のものを反映する。つまり、少子高齢化が進むなかで社会の平均年齢が加齢した人口統計的な変化の結果である。

 2007年の空気は変わった。さらに、2008年がどう変わるか。答えは三つだ。「環境公益志向」の空気と流れにのって順風で進むか、敢えて、流れに棹さして「個人上昇志向」に乗ってハイリスクハイリターンの選択をするのか。悟りをひらいて我流で道を究めるのか。すべての人の選択の結果が時代の空気を決める。

[2008.01 日立SQUARE]